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津地方裁判所伊勢支部 昭和61年(ワ)40号 判決

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の申立

一  請求の趣旨

1  被告東京海上火災保険株式会社(以下「被告会社」という)は、原告に対し、六七〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告三重大宮町農業協同組合(以下「被告組合」という)は、原告に対し、五〇〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一〇月二九日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決及び仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨の判決を求める。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告会社は、損害保険を業とするもの、被告組合は、共済事業を営むものである。

2(一)  原告は、被告会社との間で、原告所有にかかる別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という)及び同建物内に収容する家財家具一式について、次のとおりの保険契約を締結した。

(1) 本件建物につき、締結日昭和五九年一一月一日、保険期間同年同月八日から五年間、保険金額五〇〇万円、保険料半年払一回分五万三〇〇〇円とする長期総合保険契約

(2) 本件建物につき、締結日昭和六〇年七月二〇日、保険期間同年同月二八日から五年間、保険金額一五〇〇万円、保険料一三三万五〇〇〇円とする長期総合保険契約

(3) 本件建物につき、締結日昭和六〇年七月二〇日、右(二)と同一内容の長期総合保険契約

(4) 本件建物に収容の家財一式につき、締結日同日、保険期間右五年間、保険金額一〇〇〇万円、保険料八五万一〇〇〇円とする積立家財総合保険契約

(5) 同家財一式につき、締結日同日、保険期間右五年間、保険金額一五〇〇万円、保険料一二七万六五〇〇円とする積立家財総合保険契約

(二)  被告会社との右各長期総合保険契約には、火災等の事故によって保険金が支払われる場合においては、(1)臨時費用保険金として損害保険金額の三〇パーセント、ただし居住用建物の場合限度額一〇〇万円を、(2)残存物取り片づけ費用保険金として同一〇パーセントを、それぞれ支払うとの約定がある。

3(一)  原告は、被告組合との間に、昭和六〇年七月一六日、本件建物及び同建物内に収容する家財家具一式について、共済期間三〇年、火災共済金額建物三〇〇〇万円、動産特約共済金家財家具一式一五〇〇万円とする動産損害担保特約付建物更生共済契約を締結した。

(二)  被告組合との右建物更生共済契約には、共済の目的が火災等により損害を生じた場合においては、(1)臨時費用給付金として火災共済金額の三〇パーセント、ただし限度額三〇〇万円を、(2)特別費用給付金として同一〇パーセント、ただし限度額二〇〇万円を支払うとの約定がある。

4  昭和六〇年一〇月二八日、本件建物内部から火災が発生し、同建物及びこれに収容の家財家具一式が全焼し、原告は、建物につき六五〇〇万円、家財家具一式につき四〇〇〇万円の損害を被った。

よって、原告は、被告会社に対し、右損害保険契約に基づき、損害保険金六〇〇〇万円(建物三五〇〇万円、家財家具一式二五〇〇万円)、臨時費用保険金一〇〇万円、残存物取り片づけ費用保険金六〇〇万円の合計六七〇〇万円とこれに対する損害が生じた日の翌日である昭和六〇年一〇月二九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の、被告組合に対し、右建物更生共済契約に基づき、火災共済金四五〇〇万円(建物三〇〇〇万円、家財家具一式一五〇〇万円)、臨時費用給付金三〇〇万円、特別費用給付金二〇〇万円の合計五〇〇〇万円とこれに対する損害が生じた日の翌日である昭和六〇年一〇月二九日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金のそれぞれ支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2(一)は認め、(二)のうち(2)の残存物取り片づけ費用保険金を争い、その余は認める。残存物取り片づけ費用保険金の支払いは、損害保険金の一〇パーセントに相当する額を限度とし、残存物取り片づけ費用の額(実費)を支払うもの(長期総合保険約款一五条一項)である。

3  同3(一)、(二)は認める。

4  同4のうち、昭和六〇年一〇月二八日、本件建物内部から火災が発生し、同建物が全焼したことは認め、家財家具一式が全焼したことは知らず、その余は争う。

三  抗弁

1  保険契約者の故意もしくは重大な過失による免責

(一) 原告と被告会社との間の長期総合保険契約及び積立家財総合保険契約には、保険者の故意もしくは重大な過失により損害を発生させた場合には保険金を支払わない旨の約定がある(長期総合保険普通保険約款九条一項本文、一号、積立動産総合保険普通保険約款三条本文、六号)。

(二) 原告と被告組合との間の動産損害担保特約付建物更生共済契約には、共済契約者の故意又は重大な過失によって生じた損害には共済金を支払わないとの約定がある(建物更生共済約款普通約款一九条本文、ア)。

(三) 本件建物火災は、原告が保険金取得を目的として故意に放火して保険事故を生じさせたものである。

(四) そうでないとしても、原告において、本件建物内の電気系統には漏電の事実があり、中部電力の担当者から修理するように言われながらこれを放置して何ら修理の手立ても講じなかったために漏電により出火させたか、もしくは本件建物が空き家同然で第三者が侵入して本件建物内で火を使用される危険性があったのに施錠を怠ったため、第三者が火を放って焼失させたかのどちらかであり、いずれにしても原告には本件建物の焼失の原因を作るについて重大な過失があった。

2  虚偽事実の申告による免責

(一) 原告と被告会社との間の前記各保険契約には、保険契約者が正当な理由がないのに、提出書類に不実の表示をしたときには保険金を支払わない旨の約定がある(長期総合保険普通保険約款二〇条五項、積立動産総合保険普通保険約款一四条二項)。

(二) 原告と被告組合との間の前記共済契約には、被共済者が共済金の支払い請求に必要な書類に故意に事実でないことを表示したときは給付金を支払わないとの約定がある(建物更生共済約款普通約款二四条本文、イ)。

(三) 本件各保険契約当時の本件建物の固定資産評価額は三二七万七一三一円であり、家財は存在していなかったのに、右保険契約により、本件建物に六五〇〇万円、家財に四〇〇〇万円の保険を付したものであって、これは明らかに超過保険である。しかるに、原告は、被告らに提出した必要書類にはこれらの事実を隠して、虚偽の事実を記載していた。

3  通知義務違反

(一)(1) 原告と被告会社との間の前記各保険契約には、保険契約者が保険契約締結後、保険の目的と同一の構内に所在する被保険者所有の建物又は建物以外のものについて、他の保険者と長期総合保険契約その他損害保険金、盗難保険金又は水害保険金の事故を担保する保険契約を締結した場合には、事実の発生がその責めに帰すべき事由によるときはあらかじめ、そうでないときはその発生を知った後、遅滞なく書面をもってその旨を被告会社に申し出、保険証券に承認の裏書を請求しなければならず、これを怠った場合には、被告会社は、右事実が発生した時又は保険契約者もしくは被保険者がその発生を知った時から被告会社が承認裏書請求書を受領するまでの間に生じた損害に対しては保険金を支払わないとの約定がある(長期総合保険普通保険約款一二条一項本文、二号、二項)。

(2) 原告は、被告会社との昭和五九年一一月一日の長期総合保険契約締結以後に被告組合と昭和六〇年七月一六日動産損害担保特約付建物更生共済契約を締結したにもかかわらず、被告会社に前記手続きをしなかった。

(二)(1) 原告と被告組合との間の前記共済契約には、共済契約の成立後、共済の目的について火災等又は自然災害による損害をてん補する共済契約又は保険契約を締結したときは、共済契約者は、あらかじめ(その事実の発生が共済契約者又は被共済者の責任によらない時は、その事実の発生を知った後直ちに)書面で被告組合に通知し、共済証書に承認の裏書を請求しなければならず、これを怠ったときは、右事実が発生した時から、被告組合が承認裏書請求書を受領するまでの間に共済の目的について火災等もしくは自然災害によって生じた損害については共済金又は給付金を支払わないとの約定がある(建物更生共済約款普通約款二九条一項本文、ア、五項)。

(2) 原告は、被告組合との昭和六〇年七月一六日の動産損害担保特約付建物更生共済契約締結以後、被告会社と同年同月二〇日長期総合保険契約及び積立家財総合保険契約を締結したにもかかわらず被告組合に前記手続きをしなかった。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の(一)、(二)は認め、(三)は否認し、(四)のうち、本件建物火災原因が漏電による可能性もあるとすること及び原告が本件建物を空き家同然としていたことは認めるが、その余は否認する。

2  同2の(一)、(二)は認め、(三)のうち、本件建物の固定資産評価額及び原告の付した保険額は認めるが、その余は否認する。

3  同3(一)、(二)の事実は認めるが、原告は、右各保険契約の締結に際し、被告会社(代理店)及び被告組合から右通知義務に関する説明、注意等一切受けておらず、本件火災発生後はじめてこれらの条項があることを知ったものであるから、被告ら主張の法律効果は争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  保険契約の締結

1  請求原因1、2の(一)(1)、(2)のうち残存物取り片づけ費用保険金を除くその余の事実は当事者間に争いがない。〈証拠〉によると右残存物取り片づけ費用保険金は、損害保険金の一〇パーセントに相当する額を限度として支払われるとの定めであることが認められる。

2  同3(一)、(二)は当事者間に争いがない。

二  保険事故の発生

昭和六〇年一〇月二八日に本件建物内部から火災が発生して同建物が全焼したことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によると右火災によりその内訳は別として同建物内の家財が焼失した事実が認められる。

三  故意又は重過失による免責

1  抗弁1(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。

2  同1(三)の故意による事故招致の事実はこれを認めるに足りる証拠がない。

3  そこで原告の重過失の有無について判断する。

〈証拠〉に弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められ、この認定に抵触する〈証拠〉部分は、右各証拠に照らし、たやすく採用できず、他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  原告は、昭和四七年三月一五日に本件建物を新築し、妻子らと居住していたが、子らはそれぞれ独立して他に居を構えて別居してからは妻光江と二人で居住していた。昭和五九年一月一三日ころに原告夫婦が肩書住所に転居してからは、本件建物は空き家同然となり、月に一度くらいの割合で仕事の関係とか必要な物が欲しいときなどに原告が立ち寄ったりするにすぎなかった。

(二)  昭和六〇年六月二〇日ころ、原告から中部電力大台営業所に本件建物に住んでいないのに電気代が多くなっているので調べてほしい旨の届があった。同営業所の配電運営係員谷口勝弥は、直ちに本件建物に赴き調査したところ、家人が不在にもかかわらず、メーターが一般家庭で家人が住み生活しているような状態で計器の針が回っており、メーターの絶縁抵抗値が〇・〇二メグオーム(安全基準値〇・一メグオーム以上)という漏電の可能性を示唆するものであった。そこでこの結果を原告に伝えたところ、原告から近いうちに原告立会いのもとに再調査して欲しいとの依頼があり、右谷口は、当日は原告の指示で電流制限器で電気を切り、本件建物内に電気が一切流れないようにした。

(三)  同年七月一〇日、財団法人中部電気保安協会の電気設備調査担当員の天野良一が中部電力の一般需要家の電気設備の定期点検のため、本件建物に赴いた。右天野は、原告の妻の立会いのもとに検査したところ、配電盤の左から二個目の回路の絶縁抵抗値が〇・〇二メグオームであって、何処かの配線から漏電している可能性があった。そこで、原告の妻に一般用電気工作物調査結果通知書に右不良箇所を記入して交付し、電気屋に修理を頼むように言うとともに、長期間留守にするときはスイッチを切っておくように指導した。

(四)  その翌日の七月一一日ころ、原告から前記大台営業所に、家に帰ってきているので家の中に入って調査してほしいと電話してきた。前記谷口勝弥らが本件建物に赴き、室内外の全部のコンセントを点検し、メーターを止めた状態にして四個あるブレーカーの配線用遮断器を絶縁測定器を使って調べた。すると、四個並んでいるうちの向かって左側から二つ目の配線用遮断器の絶縁抵抗値が〇・〇二メグオームであったため、原告に対し、二つ目のブレーカーで配線されているうちの何処かで漏電する可能性があると思われるのでなおすようにと言い、当該ブレーカーにだけ不良と書いたエフを付けて帰った。

(五)  同年九月一〇日午後、原告から前記大台営業所に対して、メーターがおかしいので調査して欲しいとの苦情があり、同営業所配電課員の青木広巳が本件建物に赴き、原告立会いのもとに調査したところ、メーターとサービスブレーカーには異常がなかったが、それ以降の配電盤、各回路の配線のいずれかで、〇メグオームもしくはそれに近い値が出て漏電している可能性が非常に高いことが判明した。更に、配電盤で四回路に別れている各回路のブレーカー兼スイッチを切って個別に調べたところ、左右両端のスイッチはいずれも〇・一メグオーム以上であって正常値を示し、左から二つ目のスイッチは最初は〇・〇五メグオーム位と漏電の可能性を示す数値を示したが、何度か調査しなおすうち〇・五メグオームとなったので漏電の可能性は否定された。しかし、右から二番目のスイッチについては〇メグオームもしくはそれに近い数値を示しており、このスイッチからの回路で漏電があると判断された。原告は、この回路が一階裏側の三部屋の分であると述べたので、青木はこの回路を使用していると思われる電気器具を調べたが、器具の不良はなかったので、この配線中に漏電のある可能性が強いと判断し、原告に対し、漏電している可能性が強いので、不在にする場合には必ずスイッチを切るように指導し、早急に修理するように伝えたところ、原告はこれを了承した。

(六)  原告は、右のとおり中部電力の配電課員の青木から本件建物の室内の配電盤の四個並んでいるブレーカーの右から二つ目のブレーカーの回線に漏電があると言われていたのであるが、同人から一番右端のブレーカーだけ切っておき、使用の都度入れておくようにとの指示があったとして、その日以来一番右端のブレーカーだけ切るようにしていたが、回線の修理はしないままにしていた。翌一〇月一〇日ころに長女の啓子と本件建物に来たほかは誰も訪れなかった。原告は、同月二七日朝に尾鷲に仕事で行く予定を立てていたので、泊まるために前日の二六日の午後一〇時三〇分ころ本件建物内に入った。本件建物は、一階玄関の鍵が壊れており内側からは開けられるが、外側からは開けられない状態となっていたため、原告は、二階の廊下の出入口から室内に入り一階に降りた。そして、配電盤の一番右の端のブレーカーのスイッチを入れてから八畳間に入ってここに宿泊し、翌朝一〇時三〇分ころにこのブレーカーだけを切って本件建物から出た。この間、原告は本件建物内では炊事はせず、またストーブも炬燵も使わなかった。同日夜、近所の住人が午後八時ころ本件建物付近を通ったが、本件建物には電気もついておらず別段異常はなかった。

(七)  同月二八日午前一時五分ころ、本件建物の西隣に住む加藤良人らが、本件建物の北西隅から出火しているのを発見し、直ちに消防団員に連絡して消火にかかったが、火の回りが早く、一、二階とも全焼状態で、家具等殆どは焼燬、焼失してその原型をとどめない状態になった。同日午前九時一五分から原告立会いのもとに大台警察署の警察官らの実況見分が行われた。その結果、一階八畳仏間、特にその天井の焼燬状況が烈しいことが判明した。原告は、出火後、他人に火災の原因は漏電である旨話し、実況見分の際、警察官に配電盤を示し、中部電力に調査してもらったところ、はじめは真ん中の二個、最後は一番右端の回路から漏電していると説明されたと指示説明した。

(八)  本件建物の所在地は、国道四二号線から約四五〇メートル東に入った町道に面した所であり、町道を挟んで北側に公民館があり、南側は加藤良人宅に隣接しており、狭い通路を挟んで東側には大西勝一宅があり、同様西側には大西勇宅、本田肇宅及び両家の倉庫があり、近隣の者以外にはこの辺りを徘徊する者はなく、空き巣などの被害はこれまでになかった。

4  右認定の(一)ないし(八)の事実からすると、本件建物は空き家同然であったが、原告夫婦や子以外にここに入り込むような者はおらず、出火の前日原告が泊まって行った後は一階は施錠されたままであり、二階に施錠していない個所があったが原告ら以外に知る者がいたとは考えられないこと、本件建物内の電気配線には出火前の六月ころから中部電力の職員の調査により漏電の可能性の強いことが指摘され、再三原告に対して修理するように指導していたのにもかかわらず、原告はこれをせず、出火の約一か月前の九月一〇日に不良個所の絶縁抵抗値が抵抗のない状態である〇メグオームであると指摘され注意を受けてからは、漏電の恐れのある回線のブレーカーを切っておくつもりで、職員の注意を聞き誤って正常な回線につながる右端のブレーカーのみを不在時に切っていただけであり、右出火の直前の二七日の午前一〇時三〇分ころ本件建物から出たときもこの右端のブレーカーのみを切り、他は入りの状態にしていたこと、本件建物の焼燬状況は一階の八畳仏間の天井が特に烈しいこと、漏電のおそれ以外に他に出火原因があるとは考えにくく、原告も当初出火の原因が漏電である旨他に洩らしていたことが明らかであり、これらの点からすると、本件建物の出火が配電盤の右から二番目のブレーカーにつながる回線の何処かに生じていた漏電により出火したものと推認することができる。なお、〈証拠〉の実況見分調書には、電気回線等の状況については一階台所東側裏口の南壁の外側に取り付けられていたメーター、サービスブレーカーが実況見分前に中部電力職員により外されていたが、同壁内側には配電盤が設置されており、同配電盤には四個のスイッチ兼ブレーカーが付いており四回路に分けられていたが、四個のスイッチのタンブラーはプラスチック製のため溶けていたので外して中を検したところ、スイッチは全部「切」の状態であった、また配電盤から屋内に入る配線については、天井裏、壁等に這っているもの、あるいは垂れ下がっているもの等のすべての電線の被服が焼けているがショート痕らしきもののほか融解塊は見当たらなかった旨の記載があるが、前記認定の事実に照らしこの実況見分調書記載の事実だけからは本件火災の出火原因が漏電であるとの推測を覆すものとはいえない。他に、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、前記認定の事実からすると、原告は、本件火災の四か月以前から本件建物内での漏電を疑い、再三にわたって中部電力大台営業所の配電課の職員らに調査を依頼して調査を受け、右職員らから漏電の可能性を指摘され回線の修理と不在時にブレーカーを切って電流の流れを止めるようにとの指導を受けながら、漫然とこれを聞くだけで回線の修理をせず関係のないブレーカーのスイッチのみを切っていただけで、漏電による火災の発生を未然に防止する手立てを何ら尽くしていなかったことが明らかであって、右は本件保険契約及び共済契約における免責事由である「重大な過失」に該当するものと解するのが相当である。

そうだとすると、原告の被告らに対する請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないことが明らかである。

四  以上の次第で、原告の被告らに対する請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮城雅之)

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